それは優先放送


基本的に紅髪は個人の趣向に対して基本的に寛容です。


親しい人になると駄目出ししたりしますが
代わりに何かを押し付けることまではしないので、
許容範囲内だと思います。


・・・もっとも、それは
「自分の趣味を他人に押し付けないでほしい」という
私自身の意思表示でもあります。


そういうスタンスがいいのか悪いのかは分かりません。
得することもあれば損だと感じたときもあったのですが
少なくとも私が「親しい」と思っている人たちのほとんどは、
そのへんのことをおぼろげに感じ取ってくれているようです。
ありがたいことです。


しかしながら、そんな人たちとだけ付き合っていられるほど
世の中は甘くないわけで、
むしろ押し付けがましい人と接する機会の方が多いものです。
あからさまな場合は、こちらもきっぱりと意思表示できるからいいものの、
(相手につきあってあげるときもありますが。)
一番厄介なのが、本人に自覚がないパターンです。


以前パチンコ屋でアルバイトしていたとき、
店内には有線放送がひかれていたのですが、
基本的に流すのはCDで、特に開店後30分と
閉店間際にかける曲は決まっていました。


それ以外は基本的に備え付けのCDラインナップからのチョイスでしたが、
さすがに毎日となると曲数に限界が出てきます。
このため、慣例的にスタッフが持込のCDをかけることができました。
もちろんお客のテンションを下げるような曲はNGとされましたが、
明確な基準があるわけでもなく、ほとんどカウンター係になった人の裁量でした。


当時、このカウンター係をこなしていたのは
3人の女性アルバイトだったのですが、
その中でもずば抜けたルックスの人がいました。


なんでもどこかのバンドグループにボーカルとして所属しており、
そこそこファンもいるとか、そんな経歴の持ち主で、
当然男性客の受けのいい人でした。
いわゆる看板娘というものだったのかもしれません。


しかし、私はこの人がカウンターに入る日が憂鬱でした。
かける音楽のセンスが独特だったのです。
歌が入っているわけでもなく、
摩訶不思議な展開する曲調は
私の知らないジャンルのもので、非常に苦痛を伴うものでした。


カウンター係の仕事を詳しく知らなかった頃の私は
てっきりその曲が店の方針で流されているものだと思っていたのですが、
ほどなくしてそうではないと気づかされました。


紅髪「先輩、今流れてる曲って、あまり聞き覚えがない感じなんですけど、
私が知らないだけですか?」


先輩「俺もよく知らない。○○さんの趣味だよ。」


古株スタッフもあまりよく理解していないようでした。
その後、私でもCDを持込が可能だと聞いたので、
あえてその人が担当の日を狙ってCDをもっていってみました。


確かTommy february6のアルバムだったと思います。
手渡すとき、周りのスタッフの印象もよく、
○○さんもかけることをあっさりOKしました。


これで少なくとも、そのCDがかかっている間は
苦痛を味わうことなく仕事ができる、と
張り切ってフロアへ向かいました。


が。


待てど暮らせど流れてくるのはいつもの摩訶不思議曲。


いったいいつになったら
Tommy february6の歌声が聞こえてくるのかと思っていたら、
なんと閉店30分前。
摩訶不思議曲のアルバムは何枚か消化したであろうに、
Tommy february6のアルバムは最後までかかりませんでした。


・・・以前、
友人にお気に入りの曲を紹介するべく
流したところ、


「こんな歌聞かせないでくれよ」


・・・と言われてショックだったことがありますが、
自分がいいと思っているものを、相手に共感してもらいたいと思っても、
それが相手にとってもいいものになるとは限りません。


もしかすると音楽の趣向と言うのは
そんな中でも特にデリケートなものなのかもしれません。